ラヴェル その素顔と音楽論

2008年12月14日日曜日

ラヴェル その素顔と音楽論 マニュエル・ロザンタール著 伊藤制子訳
株式会社 春秋社 ISBN 4-393-93144-0 C0073

この本は指揮者であり、ラヴェルの唯一の弟子に当たるマニュエル・ロザンタールが師モーリス・ラヴェルの素顔をごく間近から見て書かれた本です.
歴史上にはバッハ、モーツァルト、ベートーベンを始め、偉大な作曲家が数多くいますが、私にとって一番好きな作曲家はフランス近代の作曲家、モーリス・ラヴェルです.ラヴェルというとバレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲を最高傑作とすることが多く、また演奏される回数も多いと思います.ただ、私は何となくそのような評価に対して(特に最後の「全員の踊り」の場面の熱狂に対して)違和感を持っていました.ロザンタールはラヴェルの最も輝かしい才能を「優しさ」としています.私は「マ・メール・ロア」、「バイオリンソナタ」、「優雅で感傷的なワルツ」などをラヴェルの最上の作品と思っていましたが、なるほど「優しさ」という言葉でくくることがでるのかと気づかされました.
本書にはこの他にもラヴェルの大変好ましい人間性を示すエピソードが綴られており、読んでいて心が温かくなる本です.ラヴェル好きはもちろん、その他の方にも是非読んで頂きたい一冊だと思います.

ビッグ・ファーマ

2008年12月3日水曜日

ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実
マーシャ エンジェル著 篠原出版新社 ISBN 4-88412-262-3

ビッグ・ファーマとはアメリカの巨大製薬企業のことをさしています.筆者は医学界で一番メジャーな雑誌であるNew England Journal of Medicineの元編集長.ここまで書いても大丈夫なの?と読んでいる方が心配になるくらい赤裸々にアメリカの巨大製薬会社の実態を暴いた本です.現在、一般の企業、業界では経済至上主義は当然のことですが、本書を読むと、医療がどのようにあるべきかということが本来の姿である医学界がむしろ経済の都合によって方向付けられるというような本末転倒の事態が起こっていることがわかります.また、製薬業界のうたい文句をそのまま信じるのはあまりに無邪気であることもよくわかると思います.日本の製薬業界の方はもちろん、医者も患者も必読の書といえます.

山川健次郎の生涯

2008年11月4日火曜日

明治を生きた会津人 山川健次郎の生涯 白虎隊士から帝大総長へ
星亮一 筑摩書房 ISBN 978-4-480-42383-2

今年は、ノーベル賞を日本人4人(南部陽一郎氏は米国籍ですが、そうはいってもやはり日本人でしょう)が受賞し、暗いニュースの多い中、多くの日本人が元気をもらったことと思います.その中の一人、南部陽一郎氏の源流ともいえる、東京大学の物理学の開祖がこの山川健次郎です.とはいっても、この本は、物理学者としての山川健次郎を描くのではありません.山川は1歳若かったために白虎隊には入れず、それゆえ幕末を生き残こりました.しかし、会津藩の人々は賊軍として、薩長が牛耳る藩閥政治の明治時代にさまざまな苦難を受けます.山川はそのような状況の中で学者としての頂点である、東京帝国大学の総長を2回つとめることになるのです.本書では山川のみならず、会津の人々の幕末から明治にかけての苦難が描かれ、涙なくしては読めない本です.それゆえ、決して人前ではなく、そっと一人で読んで頂きたいと思います.山川のような人間に私は憧れ、またそうなりたいと思います.皆さんは如何でしょうか?

東大理学部小芝ホールの正面に山川健次郎氏の銅像があります。小芝ホールには小芝氏、梶田氏のノーベル賞の賞状とメダル(レプリカだとは思いますが。ちなみにノーベル財団から1人3個までメダルのレプリカが作ってもらえるそうですのでその中の1個なのでしょうか?)が見られます。

慢性の咳

2008年10月19日日曜日

10月16日に開院いたしましたが、おいで頂く患者様の中に慢性の咳という方が複数いらっしゃいます.慢性の咳とは8週間以上続く咳と定義されています.咳については日本咳嗽研究会というのがあって、そのホームページには咳に関する情報がコンパクトにまとめられています.
一般の方向けのページもありますので、一度ご覧になるとよいかもしれません.
http://netconf.eisai.co.jp/cough/index.html

内覧会

2008年10月13日月曜日

本日は、朝10時から内覧会を開始いたしましたが、近所の方々、これまで拝見させて頂いていた患者様、医師会の先生方など多くの方にご来院いただき、終了の午後3時を過ぎるまで、切れ目なく、院内を紹介させて頂きました.この場をお借りし、本日のおいでに感謝申し上げます.16日の開院に向けて、スタッフ一同、結束を強めることができたと思います.16日の開院に向けて、明日はシミュレーションです.

音盤考現学、音盤博物誌

2008年10月11日土曜日

音盤考現学 片山杜秀 株式会社アルテスパブリッシング ISBN 978-4-903951-04-1
音盤博物誌 片山杜秀 株式会社アルテスパブリッシング ISBN 978-4-903951-07-2

毎日、天気が日替わりで、気温も上がったり下がったり、私も少し風邪気味です.この本は少し前に買っておいた本なのですが、開業準備に追われ時間的というよりは精神的に余裕がなく、なかなか読めなかった本です.
この本で、著者は1枚のレコード、CDを糸口に様々な思考、深読みを行っていきます.比較的、現代の曲あるいは作曲家を扱ったページが多く、現代音楽に親しんでいるとはいえない私には、そういった箇所はピンとこない面もありました.しかし、私の知っている作曲家、曲の部分は大変面白く、こういう切り口でくるのか、こう考えるのかとハッとさせられることが多くありました.
「ジャングル大帝」、「新日本紀行」、のだめがプルチネッラから迷い込んでしまう「今日の料理」などのテーマ音楽の作曲者、冨田勲の本質の章、 背筋のピンとした朝比奈隆の章などは特になるほどとうなってしまいました.是非、ご一読を!

食べ物とがん予防

2008年9月23日火曜日

食べ物とがん予防 健康情報をどう読むか
坪野吉隆著 文春新書 242 文芸春秋 ISBN 4-16-660242-X

この本は産業医の講習会に出席した際に、講師の先生のお話の中で推薦があり、読んでみました.
少し前に比べれば、マスコミにおける健康番組、記事は少なくなったような気がしますが、まだまだ健康に関する番組、記事は多く、興味深く見るあるいは読まれる方も多いと思います.
タイトルからはがんの予防について書いている本と思われると思いますが、著者の真意は一言でいえばメディアリテラシー(情報メディアを主体的に読み解いて、必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のこと)を磨きましょうということだと思います.
こう書くと何か難しいお話の様に思われるかもしれませんが、実際の研究を具体的に一つ一つ述べられていて、しかもその研究の一つ一つが非常に興味深い例であるため最後まで一気に読める本だと思います.
少したとえを上げれば、受動喫煙(喫煙者周囲にいる人が自分の意志に関わらず間接的にタバコの煙を吸ってしまうこと)の疫学研究に対するタバコ企業の対応という研究、映画に登場するタバコの商品名の研究、アカデミー賞受賞者とそうでない人との寿命の差の研究など.研究というと難しく聞こえますが、こんなことも研究の対象になっているのかとも思えるようなさまざまな切り口からの研究が数多く紹介されています.
最後になりますが、著者の提案する『健康情報を評価するための6つのステップ』は是非、皆様に知って頂きたいと思います.

生物と無生物のあいだ

2008年9月21日日曜日

福岡伸一著
生物と無生物のあいだ
講談社現代新書1891 ISBN 987-4-06-149891-4

本日、読み終えた本です.この本は前半は、生物の本質である自己複製能力の源、DNAの発見の物語の裏表を扱っています.特に、ワトソン、クリックの縁の下の力持ちとなったオズワルド・エイブリーの現在まであまり歴史の表舞台に出ることのなかった業績、ワトソン、クリックのDNAモデルのひらめきの直接のヒントとなったX線結晶学者ロザリンド・フランクリンによるDNAのX線写真をめぐる真実の闇の部分などは思わず引き込まれて読み進めてしまいます.
後半は、著者の研究テーマである膵臓内分泌顆粒がどのように細胞内部から細胞外部へ放出されるのかをめぐるドキュメントとなっています.著者はその経験から、生命は機械のように部品の組み合わせで成り立っているのではなく、ひとつひとつのプロセスが、時間的に積み重なっていく、後戻りのできない動的平衡のプロセスであることを述べていきます.
この本は、読んだ後に科学、研究がどうこうということよりも、生物というものの不可逆性、一回性というものに目を開かれる思いがします.NHKテレビ『篤姫』のなかで、乳母であった菊本が「女の道は一本道」という台詞がありましたが、生物そのものが決して後戻りできない運命にあるということを再認識し、これまでともうひと味違った、生命に対するいとおしさを感じさせてくれる好著だと思います.

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心拍数を遅くすると心臓に良いのか?

2008年9月18日木曜日

9月6日号のLancetに心拍数を遅くする薬剤によって落ち着いた狭心症あるいは心臓の働きの悪い方の心臓イベントが減るかどうかを調べた研究が発表されました.
Ivabradine for patients with stable coronary artery disease and left-ventricular systolic dysfunction (BEAUTIFUL): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial Lancet 2008; 372: 807–16
今回の研究の対象はおよそ12,000人の狭心症で心臓の働きが中等度以上に低下している方です.使われた薬は Ivabradine といって、洞結節のIf電流を抑制することによって心拍数が71回/分から約6拍/分遅くなりました.今回の研究で目的とした、2年間の死亡、心筋梗塞による入院、心不全悪化による入院の合計は実薬、偽薬の群の間に有意な差は認められませんでした.ただし、もともとの心拍数が70回/分以上の方については実薬群の方が心筋梗塞、不安定狭心症による入院、血行再建術が少ないという結果でした.
心拍数が70以上の虚血性心不全に対しては従来のβ遮断薬にIvabradineを上乗せする価値はありそうです.

カテーテル治療の効果はいつまで続くのか?

2008年9月10日水曜日

Effect of PCI on Quality of Life in Patients with Stable Coronary Disease
W. S. Weintraub and Others  N Engl J Med 2008;359:677-87

近年、狭心症に対する、PCI(カテーテルによる治療)は隆盛を極めています.しかし、安定狭心症(症状の落ち着いている狭心症)の方に対する効果に関してこれまでの研究結果では、少なくとも長期予後を良くするという結論は得られていません.(つまり、安定狭心症の方がPCIを受けたからといって長生きにはならないということ.)それでは、PCIにより症状は薬のみの治療に比べて、どのくらい良くなるのかというのを調べたのがこの研究です.
この研究では、薬物療法でもPCI+薬物療法でもかなり症状はよくなります.改善の程度は始めはPCI+薬物療法の方が大きいのですが、その効果の差は24ヶ月しか続かなかったことが判りました.つまり、PCIは狭心症を押さえたい場合には選択肢となりますが、その効果は2年ほどと考えておいた方が良さそうです.